日経平均株価を用いた長期投資戦略

2015年2月公開

日経平均株価を用いた長期投資戦略

このページでは,1970 年以降の日経平均株価を用いて,長期投資について考えます.

1970 年 1 月 5 日時点での日経平均株価は 2402 円で,2014 年 12 月 30 日時点での日経平均株価は 17451 円でした(出典:日経平均資料室).これは日経平均株価と同様の投資を行い続けた場合,626% の利益がでたということであり,年利にすると 5.8% の利益が出たということになります.

基本的に株に対する投資は平均的に見てプラスですが,この高い利益率は(今後に起こることはあまり期待できない)高度経済成長やバブルのおかげでもあります.一方で,バブル崩壊,リーマン・ショックなどでマイナスになることもあります.

投資はリスクが伴いますが,物価が 1970 年と比べ 2014 年時点で 3.10 倍になっている(出典:基準消費者物価指数・総合)ことを考えると,円で持ち続けることもリスクがあると考えられます.

そこで,景気後退による資産減少をなるべく避けつつも可能であれば利益を上げる,日経平均株価に対する投資方法について考えます.日経平均資料室の日次データを用いて,今後利益を上げることが期待できる投資方法を考えます.

基本的な戦略

長期投資では順張り(現在と同じ基調で価格が上がり続けるあるいは下がり続けると予測すること)が有効だと言われています.そこで,現在の株価が過去 Y 日間の平均株価より X% 以上上昇していれば株を買い(持ち続け),そうではない場合に株を売る(買わない)という順張り戦略を考えます.(「Y 日前の平均株価」ではなく「過去 Y 日前の平均株価の平均」を用いるのは,後者の方がノイズが減らすことができ,また取引回数を減らすことができるからです.)
図 1: 順張り戦略
(過去 Y 日の平均株価より X% 上昇している状態)
図 1 は順張り戦略における 2 つのパラメータを示しています.X は平均株価の上昇率を表し,Y は参照する日数を表します.X のしきい値を高く設定した場合,ほとんど取引することができなくなり,損をしにくくなりますが,利益率が 0% に近づきます.一方低く設定した場合,常に投資した状態になり,最初に示した年利 5.8% に近づきますが,景気後退のリスクを対処することができません.Y を大きくした場合,取引回数を減らせますが,手法の安定性が示しづらくなります.一方小さくした場合,取引回数が増えますが,安定性を示しやすくなります.

順張り戦略を日経平均株価に適用した結果

図 2 は,今日の平均株価を過去 Y 日間の平均株価と比較し,X% 以上上昇していた場合に,株を買い(持ち続け),そうではない場合に株を売る(買わない)という動作をした結果のヒートマップです.
図 2: 1970年〜2014年までの平均利回り
(下限値は参照する年数の平方根が掛けられています.例えば参照する日数が 1 日の場合,±50%/√365.0 の範囲を示しています.これは株価等の変動量は√時間に比例することに基づいた調整です.)
最も高い値を示したものは,今日の株価が,過去 24 営業日の平均株価と比較し 0.74% 以上上昇していた場合に買う場合で,1655% の利益(年利 8.5%)が出たことになります.しきい値 X は 0% 付近,参照する日数 Y は過去数週間以上にした順張り戦略がこの期間に関しては有効であったことがわかります.

年代別の安定性

時系列データを扱うときに図 2 のようなすべてを対象とした結果のみを使用するのは,一種の過学習を起こしてしまいがちで非常に危険です(例えばバブルの時だけ大儲けできるような手法を見つけてしまった場合,今後使うことを考えると悪手です).そこでまず年代別に分けて結果に極端な影響を与えていないかを確認します.
図 3-a: 1970年〜1979年
図 3-b: 1980年〜1989年
図 3-c: 1990年〜1990年
図 3-d: 2000年〜2009年
図 3-e: 2010年〜2014年
最も高い利益率のパラメータおよび平均年利は,
  • 1970年代 … 日数: 1 日,下限: -0.05%,年利 24.7%(日経平均株価の年利 10.6%),
  • 1980年代 … 日数: 1 日,下限: +0.15%,年利 25.5%(日経平均株価の年利 19.4%),
  • 1990年代 … 日数: 22 日,下限: +2.38%,年利 7.6%(日経平均株価の年利 -6.9%),
  • 2000年代 … 日数: 66 日,下限: +2.06%,年利 5.8%(日経平均株価の年利 -5.6%),
  • 2010年代 … 日数: 5 日,下限: -1.77%,年利 16.1%(日経平均株価の年利 5.0%).
景気の後退期であった 1990 年代,2000 年代においても下限値が 0 である付近に年利がプラスになる傾向が見て取れます. 図 3 からどの年代においても下限値が 0 であるあたりに年利が小さくならない傾向が見て取れます.これにより順張り戦略で景気後退のリスクを緩和できる可能性があることがわかります.

日々の安定性

ここまでで下限値を 0 付近にすると良いことがわかったので,次に参照する日数を変化させると日々の投資成績はどのようになるかを見てみます.日々の投資成績の安定性を見ることで,リスクの度合いを見ることができます.
図 4: 1970 年 1 月 1 日を 1 とした日々の資産変化
日経平均株価と,参照する日数を 1 日,20 日,100日とした時の資産変化を表しています.
参照する日数が 100 日の時のみバブル崩壊後もコンスタントに利益をあげていることから,参照する日数が長いと景気後退時に大きく損をせずにすむことがわかります.一方で参照する日数が長くなると変動が鈍ってしまい,1989年時点のように日経平均株価の変動に追いつけない可能性があることがわかります.

今後の課題

このページでは取引に伴う手数料を考慮していません.また「利益の期待値」の計算方法について言及されていません.

付録