為替変動の定式化

2016年3月公開

為替変動の定式化

為替変動の予測のためには単純に機械学習を行うだけでは情報量が足りません.そこで為替変動をある程度定式化することにより,情報量の増加やノイズの減少を目指します.

時間帯による変動の検証

年による変動の差異

時間帯による変動が信頼性があるならばそれを予め考慮に入れることが可能です.そこで時間帯による変動がどの程度信頼できるものなのかを調べます.
図 1: 2010 年 〜 2014 年冬時間の米ドル円の時刻別変動量
( X 軸は UTC での時刻,Y 軸は変動量)
図 2: 2010 年 〜 2014 年夏時間の米ドル円の時刻別変動量
( X 軸は UTC での時刻,Y 軸は変動量)
図 1 および 図 2 は 2010 年から 2014 年までの米ドル円時刻別変動量の統計をとったものです.ここでの変動量の定義は過去 30 分の値動きとし,急激な変動を避けるため中央値をとっています.2010 年から 2014 年までほぼ同じ動きをしていることから,時間帯による変動は継続的に起こっていることがわかります.

曜日による差異

大きな変動が起きた時に,その変動が取引が活発なため起こっているものなのか,実体経済の変動によるものなのかを区別できるようにすることは,為替の予測をする上で重要です.そこで曜日・時間帯による変動があるかどうかを調べます.
図 3: 2014 年英ポンドの週間変動量
( X 軸は時刻,Y 軸は変動量)
図 3 は 2014 年英ポンドの週間変動量の統計をとったものです.ここでの変動量の定義は過去 10 分の値動きとしています.急激な変動は,
  • 月曜日の 7 時から 10 時 … 週末の潜在的な実体経済の変動を吸収するための変動
  • 18 時半 … イギリスの指標発表による変動
  • 22 時半 … アメリカの指標発表による変動
の影響と考えられます.また曜日による変動は,月曜日の取引開始時を除き,ほぼないことがわかります.

時間・変動スケールの検証

為替取引は電子化が進んだため,将来の為替予測に用いられる為替変動の履歴はここ10年以内に限られ,機械学習に十分な量とは言えません.為替変動にフラクタル性が存在すれば,学習に用いられるデータを増やすことができる可能性があるため,ここでは時間・変動スケールについて検証します.
図 4: 2014 年英ポンドの変動量
( X 軸は対象時間(分)の平方根,Y 軸は変動量,各系列はその割合に入る変動量)
図 4 は 2014 年英ポンドの為替変動の統計をとったものです(例えばこのグラフから,9 時間の変動は 90% の確率で 0.50% と読み取れます).このグラフの各系列がほぼ直線であることから,時間が X 倍になると,変動は √X 倍になることがわかります.これはランダムウォークにおける,時間と変動の関係とも一致することから,概ね実際の為替変動においても成り立つと考えて良いと思われます.

時系列での変動の検証

大きな変動が起きた時に,その変動がその後の変動に影響をし続けるならば,それは取引量自体が変化したと考えられ,テクニカル分析にはノイズになると考えられます.そこで時系列での変動について調べます.
図 5: 2001 年 〜 2015 年英ポンドの変動量
図 5 は英ポンドの 10 分間変動量の平均を 2001 年〜 2015 年の各週についてとったものです.2008 年の終わりから 2009 年にかけて変動が多かった時期があるなど,変動が大きくなると大きくなり続ける傾向があると考えられます.
【仮説】半減期を 1 週間程度にすると良い近似が得られる

為替変動の自己相関

大きな変動が起きた時に,その変動がその後の変動に影響をし続けるならば,それは取引量自体が変化したと考えられ,テクニカル分析にはノイズになると考えられます.そこで自己相関について調べます.
図 6: 2014 年英ポンドの短期的な自己相関
( X 軸は時間差,Y 軸は変動量)
図 7: 2001 年 〜 2014 年英ポンドの長期的な自己相関
( X 軸は時間差,Y 軸は変動量)
図 6 は 2014 年英ポンドの 5 分間変動量の自己相関の平均を 1 時間以内についてとったものです.図 7 は英ポンドの 30 分間変動量の自己相関の平均を 90 日以内についてとったものです.図 6 が時間が経つにつれ急激に相関が下がっていることから,短期的な変動は取引量にほとんど影響がないことがわかります.一方で図 7 がゆるやかに相関が下がっていることから,取引量は数カ月程度変動の期間でゆるやかに変動していると考えられます.