レバレッジと期待値

2015年12月公開
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レバレッジと期待値

レバレッジをかけると,直感的には利益率が上がる一方で資産が減る確率も上昇します.実際にどの程度変動するかを計算し適切なレバレッジを決定できる考察します.

変動モデル

ここでは変動モデルを,ε (十分に小さな値) を用いて,変動が 1+ε になるか \frac{1}{1+ε} になるまで待つモデルとします.1+ε になる確率と \frac{1}{1+ε} になる確率は(為替には逆の立場の人もいることから自明に)同じになります.このモデルは対数期待値が 1 で線形期待値が 1+\frac{ε^2}{2} となります.一般に為替変動は対数正規分布に従うとされていますが,こちらのモデルは時間軸を制御することにより,より簡単で正確なモデルを実現していると考えられます.

レバレッジモデル

レバレッジを 1 倍以外の値でかける場合は最新の変動に応じて資産を移動する必要があります.L 倍のレバレッジを採用した時,
  • 1+ε の変動が起きた場合は資産が 1+Lε 倍 (A) に,
  • \frac{1}{1+ε} の変動が起きた場合は資産が 1-\frac{Lε}{1+ε} 倍 (B) に
変化します.この一回の操作により資産は,
  • 対数期待値が 1+(1-L)L\frac{ε^2}{2}\ (~ \sqrt{AB}) 倍に,
  • 線形期待値が 1+L\frac{ε^2}{2}\ (~\frac{A+B}{2}) 倍になります.

ドリフト付きレバレッジモデル

ドリフトがなかった時に ε 変化する間に投資対象が 1+Δ 倍になることが見込まれているとした時,
  • 上昇の変動が起きた場合は資産が 1+Lε+LΔ 倍 (A) に,
  • 下降の変動が起きた場合は資産が 1-\frac{Lε}{1+ε}+LΔ 倍 (B) に
変化します.この一回の操作により資産は,
  • 対数期待値が 1+LΔ+(1-L)L\frac{ε^2}{2}\ (~\sqrt{AB}) 倍に,
  • 線形期待値が 1+LΔ+L\frac{ε^2}{2}\ (~\frac{A+B}{2}) 倍になります.
対数期待値を最大化するレバレッジ L0.5+\frac{Δ}{ε^2},線形期待値はレバレッジを上げれば上げるほど上がります.

為替・株における適切なレバレッジ

日経インデックスにおける適切なレバレッジ

日経インデックスの 1 日の変動は時期によって変動しますが,2015 年時点では大体 1.0 % 〜 2.0 % 程度ですので,ここでは 1.5 % を用います.インデックスの利率は時期によって大きく変動しますが,一般的に 6 % 〜 8 % 程度と言われているのでここでは 7 % を用います.年間営業日は 250 日程度なので,1 日当たりの利率は 0.027 % 程度と考えることができます.日経インデックスも幾何ブラウン運動をすると言われているので,このモデルが適用できるものと考えます.
パラメータを Δ=0.00016,\ ε=0.015 とすると,レバレッジが 1 倍の時の年利の期待値は 7 % となります.この時の対数期待値は年利に換算すると 4.1 % 程度となります.対数期待値を最大化するレバレッジは 1.2 倍であり,年利の対数期待値は 4.2 % 程度となり,1 倍の時と比べて若干の上昇が見られます.一方で線形期待値は 8.5 % とこちらも若干の上昇が見られます.実際にプログラムでシミュレーションした結果も同様の結果が得られました.

日経インデックスでアクティブ運用した時のレバレッジ

日経平均株価を用いた長期投資戦略のアルゴリズムを用いてアクティブ運用した場合にどのように変化するかについて考えます.長めに見積もって 200 日程度の営業日で利率 7 % を達成できるため,1 日当たりの利率は 0.033 % 程度と考えることができます.パラメータを Δ=0.00023,\ ε=0.015 とすると,レバレッジが 1 倍の時の年利の線形期待値が 7 %,年利の対数期待値が 4.7 % となります.対数期待値を最大化するレバレッジは 1.5 倍であり,年利の線形期待値が 10.8 %,年利の対数期待値が 5.4 % となり,パッシブ運用した時にくらべて年利の対数期待値が改善し,レバレッジをよりかけやすくなっていることがわかります.

分散投資を行うときのレバレッジ

複数の独立な投資対象への投資した結果の対数期待値は,それぞれの対数期待値の対数平均とは一致しません.これは,独立な投資対象が無限に存在してそれらに分散投資した場合は,分散が限りなく 0 に近づき対数期待値が線形期待値にほぼ一致することから明らかです.
これを検証するため独立に変動する N 個の投資対象を用いて計算します.このモデルでは,
対数期待値 =\exp(E_{s \in \{0,1\}^N}\log(1+{\rm Σ}_i(L\frac{ε^2}{2}+(-1)^{s_i}(Lε-L\frac{ε^2}{2}))))
=\exp( NL\frac{ε^2}{2} -E_{s \in \{0,1\}^N} \frac{1}{2}({\rm Σ}_i((-1)^{s_i}(Lε)))^2)
=\exp(NL(1-L)\frac{ε^2}{2})
となります.対数期待値を最大化するレバレッジ L は投資対象それぞれに対して 0.5 の時になり,投資対象が 2 種類以上の場合は証拠金以上の投資を行った時に対数期待値を最大化することができることがわかります.

自国通貨の変動

現実には自国通貨も他国通貨と同様に変動しているので先の理論通りに変動はしません.これを考慮に入れると,
対数期待値 = \exp(E_{s \in \{0,1\}^N}E_{S \in \{0,1\}}\log(1+NL\frac{ε^2}{4}+N(-1)^S(L\frac{ε}{\sqrt{2}}-L\frac{ε^2}{4})+{\rm Σ}_i(L\frac{ε^2}{4}+(-1)^{s_i}(L\frac{ε}{\sqrt{2}}-L\frac{ε^2}{4}))))
= \exp(NL(1-\frac{N+1}{2}L)\frac{ε^2}{2})
になります.対数期待値を最大化するレバレッジ L は投資対象それぞれに対して \frac{1}{N+1} の時になり,証拠金を自国通貨も含め均等に分散した時に対数期待値を最大化できることがわかります.

参考文献