宇宙データセンターは冷やすのが難しい?

2026年7月31日公開

宇宙データセンターは冷やすのが難しい?

宇宙データセンターの話題になると、「宇宙は冷たいから冷却は簡単だ」という意見と、「真空では熱が逃げないからデータセンターなど不可能だ」という意見の両方を見かけます。実はどちらも正確ではありません。確かに真空中では外気への対流が使えませんが、赤外線による熱放射で熱を捨てることはできます。発電に数千 m² 級の太陽光パネルが必要になる設備であれば、同じく千 m² 級のラジエーターも面積の桁として十分に現実的であり、ラジエーターだけが発電設備に比べて桁違いに巨大になるわけではありません。本記事では、地球軌道付近で太陽光発電する 1 MW 級の宇宙データセンターを想定し、必要なラジエーターの面積を見積もります。

1. ISS で見るラジエーターの面積と質量

まず、実在する大規模な宇宙設備として国際宇宙ステーション(ISS)を見てみます。NASA の ISS リファレンスでは、太陽電池アレイの面積を約 2,247 m²としています[1]。以下では、この面積を基準にします。
現在の ISS には、従来の 8 枚の主アレイを補う 6 枚の iROSA も設置されています。そのため、2,247 m² だけでは現行構成の太陽電池面積を完全には表しません。本記事では、外部構造の規模感をつかむための参考値として使います。
一方、米国側の主熱排出系(HRS)は最大 70 kW を排熱でき、23.3 m × 3.4 m のラジエーターパネル(ORU)6 基で構成されています。外形の投影面積は合計約 475 m² です。これとは別に、太陽光発電設備を冷却するためのラジエーター(PVR、3.12 m × 13.6 m、最大 14 kW)が 4 基あります。両者を単純に合計すると、排熱能力は最大約 126 kW、投影面積は約 645 m² になります[2]。NASA の 2025 年の資料にある放射表面積約 1,300 m² は、645 m² の投影面積のほぼ両面分に相当します[5]。
ここで確認したいのは面積の大小ではなく、数百 m² 級のラジエーターが宇宙で実際に運用され、太陽電池アレイと同様に大規模な外部構造として成立していることです。ISS の実例でも、放熱設備だけが発電設備に比べて桁違いに巨大というわけではありません。
展開面積だけでは、設備の作りやすさは判断できません。NASA の公称値を足すと、HRS 6 基と PVR 4 基のラジエーター・アセンブリだけで約 9.7 t になります。この値にはポンプ・タンク・回転継手・熱交換器・外部配管などを含みません。ISS は、宇宙での放熱が可能である一方、大面積の冷却構造を軽量に作ることが別の難題であることも示しています[2]。
太陽電池側も軽いわけではありません。NASA の公称値から、従来の主太陽電池アレイ 8 枚だけで少なくとも約 8.7 tと見積もれます。したがって、ラジエーター・アセンブリ約 9.7 t と太陽電池アレイは、質量についても同じ桁です[3]。
NASA の STS-119 プレスキットでは、従来の Solar Array Wing(SAW)1 枚を 2,400 lb(約 1.09 t)超としています。ISS には 8 枚あるため、合計は \(2{,}400\times8\ \mathrm{lb}\simeq8.7\ \mathrm{t}\) 以上です。面積 2,247 m² で割ると、面積当たりでは少なくとも約 3.9 kg/m² になります。この値には支持トラス・回転機構・電力変換設備や、追加された 6 枚の iROSA を含まないため、現行構成の太陽電池設備全体の質量はさらに大きくなります。
国際宇宙ステーションを正面に近い向きから見た写真。左右へ大きく広がる茶色い太陽光パネルをオレンジ色の矢印で示し、中央から下へ展開する白い主ラジエーター 6 基を青色で囲んでいる。発電設備と放熱設備がともに大規模な外部構造であることが分かる。
図 1:ISS の太陽光パネルと主ラジエーター オレンジ色の矢印が太陽光パネル、青色の囲みが HRS のラジエーター 6 基を示す。本文で用いる投影面積 645 m² には、図中で囲んでいない PVR 4 基も含む。写真は Thomas Pesquet / ESA が 2021 年 11 月 8 日に撮影した NASA ID「jsc2021e064215_alt」[6]。注釈はいもす研が追加し、NASA のメディア利用ガイドラインに基づいて情報提供目的で使用している[7]。

2. 真空でも熱放射で冷却できる

熱の移動には、物質の内部を伝わる熱伝導、流体が熱を運ぶ対流、電磁波として伝わる熱放射の 3 つの形態があります。宇宙空間では外気への対流こそ使えませんが、設備の内部では冷却材による対流や配管・パネル内の熱伝導で熱を運び、最終的にラジエーターから赤外線として宇宙へ捨てることができます。
深宇宙だけを向いたラジエーターが捨てられる熱量は、面積が広いほど、また温度が高いほど大きくなります。放熱量は絶対温度の 4 乗に比例して急速に増えるため、ラジエーターを何 ℃ で運用できるかが、必要な面積を大きく左右します。厳密には、表面がどれだけ赤外線を出しやすいか(放射率)や、周囲から入ってくる赤外線も考慮する必要があります。
深宇宙だけを向いたラジエーターの正味放熱量は、ステファン=ボルツマンの法則から \[ P = \varepsilon \sigma A \left(T_\mathrm{radiator}^{4}-T_\mathrm{sink}^{4}\right) \] と表せます。\(A\) は赤外線を放つ表面積、\(\varepsilon\) は赤外放射率、\(\sigma\) はステファン=ボルツマン定数です。ラジエーター温度が 0~100 ℃ 程度であれば、深宇宙から戻ってくる放射は無視できるほど小さく、放熱量はほぼ \(T_\mathrm{radiator}^4\) に比例します。
この関係を直感的に掴むため、内部で発熱しない物体を、地球と同じ太陽からの距離に置いた場合を考えてみます。この位置では、太陽光が正面から 1 m² あたり 1,361.6 W 降り注ぎます[8]。物体は太陽光を吸収して温まっていき、やがて吸収する熱と赤外線として捨てる熱が等しくなる温度で釣り合います。
太陽光の吸収と赤外線の放射だけが釣り合うとすると、 \[ \alpha S A_\mathrm{projected} = \varepsilon \sigma A_\mathrm{emitting}T^4 \] が成り立ちます。\(A_\mathrm{projected}\) は太陽から見た投影面積、\(A_\mathrm{emitting}\) は赤外線を放つ表面積です。
赤外線を理想的に放射する物体について、形状と太陽光の反射率を変えると、釣り合う温度は次のように大きく変わります。最初の 2 例は太陽光をすべて吸収する場合です。
物体投影面積と放射面積の比釣り合う温度
太陽に正対し、表裏から放射する薄い平板1 : 2約 58 ℃
表面温度が一様な球1 : 4約 5 ℃
地球と同じボンドアルベド 0.30 の球吸収率 0.70、1 : 4約 −18.5 ℃
最後の値は、地球全体を一様温度の球とみなして外から見たときの有効放射温度であり、実際の地表温度ではありません。注目すべきは、太陽からの距離が同じでも、太陽光を受ける面積・赤外線を出す面積・反射率の違いだけで、釣り合う温度に 70 ℃ 以上の差が生じることです。つまり温度を決めるのは「宇宙が何 ℃ か」ではなく、物体が何をどの向きで見て、どれだけ吸収し、どれだけ放射するかなのです。
なお、実際の低軌道では、ラジエーターは太陽・地球・周囲の構造物からも放射を受けるため、それらも同じ熱収支に加えて計算する必要があります[9]。

3. 吸収した太陽光は、最終的にどこかから放射される

太陽光パネルに入射した光は、一部が反射され、残りがパネルに吸収されます。吸収されたエネルギーのうち電力として取り出された分は、配線を通って計算機へ運ばれ、CPU・GPU・メモリなどで最終的にほぼすべて熱になります。GPU が計算をするからエネルギーが増えるわけではなく、太陽光として入ってきたエネルギーが、電気を経由して熱に変わるだけです。同じ電力を消費するなら、有用な計算に使っても抵抗器で捨てても、発生する熱量は変わりません。
定常状態の太陽光パネルでは、吸収した太陽エネルギーは、外部へ取り出される電力と、パネル自身から熱として捨てられる分に分かれます。
\[ P_\mathrm{solar,absorbed} = P_\mathrm{electric,out} +P_\mathrm{panel,thermal} \]
では、電力を取り出さなければどうなるでしょうか。パネルが太陽光を受けなくなるわけではありません。吸収したエネルギーをパネル自身が放射する割合が増え、より高い温度で釣り合うことになります。NASA の太陽光パネル熱解析でも、通常運転では吸収エネルギーの一部が電力として取り出されるのに対し、電力を取り出さない条件では吸収エネルギーをすべて再放射することになり、パネルが高温になると説明されています[10]。つまり、電力を使わないときにも太陽光パネル自身の放熱設計は必要であり、過度な温度上昇は発電性能や寿命を損ないます[11]。
このことから、計算を止めて太陽光パネルから電力を取り出さなければ、データセンター用ラジエーターの負荷は減りますが、その分だけ太陽光パネル側の放熱が増えます。逆に、1 MW の電力を計算機へ送り続ければ、太陽光パネルの熱収支から約 1 MW が電力として持ち出され、計算機側で約 1 MW の熱となって、データセンター用ラジエーターから捨てることになります。太陽光として吸収したエネルギーは、発電や計算をするかどうかにかかわらず、設備のどこかから最終的に宇宙へ放射し返さなければならないのです。
以下では、設備全体が 1 MW を連続で消費し、平均約 1 MW をデータセンター用ラジエーターから放熱するものとします。なお、GPU などの IT 負荷だけで 1 MW を使う場合は、電源変換・通信・ポンプ・姿勢制御などの分だけ、必要な発電量と放熱量は 1 MW より大きくなります。

4. 1 MW の発電には太陽光パネルが数千 m² 必要

NASA の 2026 年版の衛星用電力系レビューによると、現在の宇宙用多接合太陽電池の公称効率は概ね 30%、高いものでも 34% です[11]。ここでは、パネルの全面が効率 30% のセルとして働くという楽観的な仮定を置きます。地球軌道付近の太陽放射照度 1,361.6 W/m² に 30% を掛けると、日照中の出力は 1 m² あたり約 408 W になります[8]。
太陽光パネルの日照中の出力は \[ P_\mathrm{PV} = \eta_\mathrm{PV} S A_\mathrm{PV} \] です。常に太陽へ正対し、劣化・セル間の隙間・配線・電力変換の損失をすべて無視しても、1 MW を得るには \(1{,}000{,}000/(1361.6\times0.30)\simeq2{,}448\ \mathrm{m^2}\) が必要です。
さらに低軌道では、周回のたびに地球の影に入るため、日照中に現在の負荷を賄いながら、日陰で使う分の電力も蓄えておかなければなりません。一例として、90 分の周回のうち 55 分が日照・35 分が日陰で、蓄電の往復効率を 90% とすると、日照中には連続負荷の約 1.71 倍を発電する必要があります。この場合、1 MW の連続負荷に必要な太陽光パネルは約 4,179 m² になります。
\[ 1+\frac{35}{0.90\times55} \simeq 1.707 \] なお、この例では蓄電損失として軌道平均約 43 kW の追加発熱が生じますが、以下では比較を単純にするためラジエーター面積の計算から省略します。
1 MW の連続負荷へ電力を供給する条件太陽光パネル面積
常時日照、変換効率 30%、その他の損失なし約 2,448 m²
55 分日照・35 分日陰、蓄電往復効率 90%約 4,179 m²
実際にはセルの充填率、温度、経年劣化、配電損失、姿勢のずれ、設計余裕などが加わるため、2,448 m² はあくまで下限です。以下では、この 2,448~4,179 m² という範囲を、発電設備の規模を表す目安として使います。

5. 冷却材の温度とラジエーターの表面温度は別物

ISS HRS の計算では、NASA の最大能力設計条件から求めた放射有効温度約 −0.8 ℃を使います。この温度を使うと、熱放射の式による試算と HRS の公称最大能力を同じ条件で比較できます。
NASA の最大能力設計条件では、アンモニアのラジエーター入口温度は約 10.2 ℃、出口温度は約 −5.5 ℃、平均温度は約 2.4 ℃です。平均パネル表面温度は約 0.8 ℃、フィン効率は 88%、等価シンク温度は約 −27.8 ℃とされています。この条件で 1 基の ORU が約 11.68 kW を排熱し、6 基で HRS の公称最大能力約 70 kW になります[4]。別の NASA 資料にある −40 ℃は、姿勢制御によって目指すラジエーター出口温度であり、最大能力条件の出口温度でも、ラジエーター面全体の温度でもありません。また、約 2.8 ℃は、冷たいラジエーター出口流と暖かいバイパス流を混ぜた後に熱交換器へ送る供給温度です[2]。したがって、−40 ℃を放射面温度として使うことも、−40 ℃と 2.8 ℃の中間である約 −19 ℃を使うことも適切ではありません。
NVIDIA の例が直接示すのは、Vera Rubin 世代の MGX ラックが 45 ℃ 級の入口冷却材を受け入れられることです[14]。冷却材はラックで熱を受け取って温度が上がり、ラジエーターで冷やされて戻ります。熱を冷却材から放射面へ流すには温度差が必要なので、ラック入口・ラック出口・ラジエーター内の冷却材・ラジエーター表面は、それぞれ異なる温度になります。
40 ℃ の放射面が成立するかは冷却材の戻り温度と熱抵抗によって決まり、60 ℃ の放射面は、さらに高い戻り温度を実現できた場合の感度ケースです。したがって、本記事の 40~60 ℃ は製品仕様そのものではなく、温度によって必要面積がどう変わるかを見るための仮定です。実際の設計では、冷却材の往復温度、流量、熱交換器、流路から放射面までの熱抵抗を具体的に決める必要があります。

6. ラジエーターに必要な面積

ここでの投影面積とは、薄い板の表裏両面を放射に使うラジエーターを正面から見たときの面積です。まず、赤外放射率 0.90 で表面温度が一様、外部から熱を一切受けない理想的な放射面を考えると、1 m² あたりの放熱量は 40 ℃ で 491 W、60 ℃ で 629 W になります。ただし、これらは環境からの入熱や放射に使えない部分を無視した値であり、そのまま実機の必要面積を表すものではありません。
現実の低軌道では、ラジエーターは直射日光のほか、地球の赤外放射、地球や雲が反射した太陽光、周囲の構造物からの放射を受けます。NASA Ames 研究センターの設計標準では、地球周回軌道の設計に用いる直達太陽光を 1,322~1,414 W/m²、地球赤外放射の全球年平均を 234 ± 7 W/m² としています。アルベド(反射光)は軌道や雲の状況によって変わります[12]。
宇宙用の白色熱制御塗料 AZ-93 は、公称の太陽光吸収率が 0.15、赤外放射率が 0.91 です[13]。このように、太陽光を吸収しにくく、熱赤外線を放射しやすい――両者は異なる波長帯である――材料でも、太陽に正対すれば約 204 W/m² を吸収してしまいます。40 ℃ の理想放射密度 491 W/m² と比べて無視できない量なので、ラジエーターは太陽に対して縁を向ける(エッジオンに近づける)とともに、地球や他の高温面からの入熱も減らす配置が重要になります。
また、実際の放射面には温度のむらがあり、支持材・折り畳み機構・配管など、放射に十分使えない部分も含まれます。そこで以下では、温度むらを「放射量が等しくなる一様な温度」に置き換えたうえで、面積のうち実際に放射へ使える割合も考慮します。
放射有効温度は、実際の放射面積を \(A_\mathrm{active}\)、場所ごとの表面温度を \(T(\mathbf{x})\) として \[ T_\mathrm{eff}^4 = \frac{1}{A_\mathrm{active}} \int_{A_\mathrm{active}}T(\mathbf{x})^4\,\mathrm{d}A \] と定義します。幾何学上の片面 1 m² あたりの正味放熱密度は、外部から受ける熱を \(q_\mathrm{env}\) とまとめると \[ q_\mathrm{net} = f_A\varepsilon\sigma T_\mathrm{eff}^4 -q_\mathrm{env} \] です。実際には \(q_\mathrm{env}\) が表と裏で異なるため、各面の放熱量を別々に求めて合計します。
必要面積を比較するため、ISS HRS と同じく面積の 80% を有効な放射面とし、環境からの入熱がない場合と、幾何学上の片面面積 1 m² あたり環境から正味 148 W を吸収する場合を計算します。後者は ISS HRS の等価シンク温度から求めた条件を、そのまま 40 ℃・60 ℃ の放射面にも適用したものです。特定の新しい配置に対する設計値ではありませんが、環境条件をそろえることで温度による違いを比較できます。
比較表には、ISS HRS についてNASA の設計条件を熱放射の式へ適用した試算と、公称最大能力から求めた値を併記します。
ISS HRS 1 基の放射表面積 129.8 m² は、外形から求めた表裏面積 158.4 m² の約 82% なので、有効面積率 80% は実機とも概ね整合します[4]。平均アンモニア温度 \(T_\mathrm{NH3}=275.5\ \mathrm{K}\)、フィン効率 \(\eta_\mathrm{fin}=0.88\)、等価シンク温度 \(T_\mathrm{sink}=245.4\ \mathrm{K}\) から、同じ正味放熱量になる放射有効温度は \[ T_\mathrm{eff} = \left[ T_\mathrm{sink}^4 + \eta_\mathrm{fin} \left( T_\mathrm{NH3}^4-T_\mathrm{sink}^4 \right) \right]^{1/4} \simeq 272.4\ \mathrm{K} \quad \left(-0.8\ ^\circ\mathrm{C}\right) \] となります。ここではフィン効率を放射有効温度へ折り込んでいるため、NASA 資料にある平均パネル表面温度約 0.8 ℃とは値が異なります。有効面積率 80% と赤外放射率 0.90 を適用すると、等価シンクから受ける入熱は、幾何学上の片面面積 1 m² あたり \[ q_\mathrm{env} = 0.80\times0.90\times\sigma\times(245.4\ \mathrm{K})^4 \simeq 148\ \mathrm{W/m^2} \] です。両面を使う場合の正味排熱量は約 153 W/m² となり、1 MW に必要な投影面積は約 6,520 m² です。 一方、HRS の公称最大能力 70 kW を投影面積約 475 m² で割ると、約 147 W/m² となります。単純化した式との差は約 4% で、1 MW へ比例させた投影面積は約 6,790 m² です。また、平均アンモニア温度 2.4 ℃で、有効面積の減少・フィン効率・環境入熱をすべて無視した両面放射は約 588 W/m² です。公称値はその約 25% なので、これらを含む実機相当の性能低下は約 75% です。その大部分は、有効面積率 80%、フィン効率 88%、等価シンク温度 −27.8 ℃という既知の条件で説明できます。
条件放射有効温度有効面積率環境入熱
(各面)
投影面積当たりの
正味排熱量
1 MW に必要な
投影面積
ISS HRS の設計条件を式へ適用
両面放射
約 −0.8 ℃80%約 148 W/m²約 153 W/m²約 6,520 m²
ISS HRS の公称最大能力
70 kW ÷ 約 475 m²
約 147 W/m²約 6,790 m²
環境入熱なし・両面放射40 ℃80%0 W/m²約 786 W/m²約 1,274 m²
ISS と同じ環境入熱・両面放射40 ℃80%約 148 W/m²約 489 W/m²約 2,044 m²
ISS と同じ環境入熱・両面放射60 ℃80%約 148 W/m²約 710 W/m²約 1,409 m²
ISS HRS の値を 1 MW へ比例させると約 6,790 m²、同じ環境入熱を置いた 40~60 ℃ の試算では約 1,400~2,050 m² になります。環境条件をそろえても、0 ℃ 前後で排熱する ISS より温度を上げることで、必要面積が数分の 1 になることが分かります。重要なのは特定の面積を境界にすることではなく、運用温度がラジエーターの規模を大きく左右し、現実的な温度条件では発電設備に比べて桁違いの大きさを必要としないことです。
ラジエーターの両面を有効な放射面として使えることも、必要面積を抑えるうえで重要です。片面しか使えない場合、必要な投影面積はほぼ 2 倍になります。40 ℃・有効面積率 80%・環境入熱 148 W/m² の例では約 4,090 m² です。両面を低温の宇宙へ開ける配置は、必要面積を左右する設計条件の一つです。
もちろん、これは特定の軌道に対する設計値ではありません。実機では、軌道・姿勢・表裏それぞれの形態係数・表面特性の経年劣化・最悪の高温条件・故障時の余裕などを含めた解析が必要です。それでも、この試算からは、物理法則だけでラジエーターが桁外れの面積になるわけではないことが分かります。

7. 結論

太陽光で 1 MW の連続負荷を動かすには数千 m² の太陽光パネルが必要であり、ISS と同じ環境入熱を置いた本試算では、両面ラジエーターの投影面積は約 1,400~2,050 m² となりました。どちらも千 m² 級の大規模構造であり、ラジエーターだけが発電設備に比べて巨大という結果ではありません。
温度・環境入熱・片面か両面かによって、必要面積は大きく変わります。ここで求めた面積は実現性の合否を決める境界ではなく、展開構造の規模を見積もるための値です。適切な温度と配置を選べば、ラジエーターは発電設備と同じ桁の構造にできます。「真空だから冷却できない」「ラジエーターは発電設備に比べて桁違いに巨大になる」という一般論は成り立ちません。
面積だけを理由に宇宙データセンターを不可能とはいえませんが、1 MW あたり千 m² 級の放射面へ熱を運ぶ軽量な冷却系を作り、微小隕石や故障に耐えながら長期間運用することは、依然として大きな工学的課題です。

参考文献

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  2. [2] NASA, "Active Thermal Control System (ATCS) Overview," 2006. (ISS の内部・外部熱制御ループ、HRS・PVR、ラジエーター質量、アンモニア温度制御)
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最終更新日: 2026年7月31日